長年折り紙教室を続けていると、技術だけでは説明できない出来事に出会うことがあります。
以前、教室に来られていた生徒さんの中に、折り鶴だけはとても上手に折れるのに、ほかの作品になると、なぜか途中で鶴を折ってしまう方がいました。
最初は「鶴が好きなんやな」くらいに思っていたのですが、お話を聞いていくうちに、その折り鶴には大切な思い出がつながっていることがわかりました。
今回は、折り紙を通して、人の記憶や思い出の力を感じた忘れられない体験をお話ししたいと思います。
折り鶴は上手なのに、なぜか蝶が鶴になってしまう
最初は特に気にしていませんでした。
ところが、一緒に折り紙を折っているうちに、「あれ?」と思う出来事が何度か続きました。
最初に教えたのは簡単な蝶
最初にその方と一緒に折ったのは、簡単な蝶でした。
折る様子を見ていると、角と角をぴったり合わせ、折り筋もしっかりつけています。端までピシッと折る姿を見て、「とても上手な方だな」と感じました。
折り紙の経験もありそうでしたし、難しい作品にも十分挑戦してもらおうかなと考えてました。
教室では、他の生徒さんのサポートで席を離れることもよくあります。
その日も、別の生徒さんに呼ばれ、私は少しその方のそばを離れました。
戻ってみると、そこにあったのは折り鶴だった
しばらくして、「できた♪」と声がしたので、作品を見に行きました。
ところが、そこにあったのは蝶ではなく、とてもきれいな折り鶴だったのです。
「……あれ? さっきまで蝶を折っていたはずやったよな?」
思わずそう思ったのを覚えています。
最初は私の勘違いかと思いました。
ところが、その後も私がそばを離れるたびに、同じことが何度か続いたのです。
そばにいると蝶になるのに、一人になると鶴になってしまう
「もしかしたら、私の説明がわかりにくかったのかな?」と思い、もう一度最初から蝶を一緒に折ってみることにしました。
すると今度も、特に迷う様子もなく、きれいな蝶を完成させてくれました。
折り方がわからないわけではないようです。技術的には十分折れる力を持っている方でした。
ところが、私が他の生徒さんのところへ行き、一人になると、また折り鶴を折ってしまうのです。
実は、こうしたケースは私にとって初めての経験でした。
長年教室を続けていますが、教えている作品とは違う作品を、無意識のように折ってしまう方に出会ったことはありません。
私はかなり困惑しました。
そして、「これは技術の問題ではないのかもしれない」と感じ始めたのです。
「鶴は誰に教えてもらったんですか?」と聞いてみた
何度見ても、技術的な問題には思えませんでした。
ご本人も、「蝶を折ろうと思っているのに、なぜか鶴になってしまう」と戸惑っておられる様子でした。
そこで私は、「鶴は誰に教えてもらったんですか?」と聞いてみることにしました。
すると、その方は昔のお話を少しずつ聞かせてくださいました。
詳しい内容は伏せますが、姉妹や親戚の方と一緒に折り鶴を折って遊んだ、とても楽しい思い出があったようです。
お話をされているうちに、その頃の記憶が次々と思い出されたのか、その方は少し涙ぐまれていました。
その思い出の中には、今はもう会うことのできない大切な方もいらっしゃったようです。
折り鶴には、その方にとって特別な意味があったのかもしれないと思いました。
その日は、新しい作品には挑戦しなかった
その様子を見て、私は思い出を無理に切り上げることはしませんでした。
「せっかく大事な人のことを思い出したんやから、今日は好きな紙で好きなだけ鶴を折ってください」
そうお伝えすると、その方は静かに頷かれました。
その日は、新しい作品に挑戦することはやめて、折り鶴を折りながら思い出をたどる時間になりました。
今振り返っても、あの時は新しい作品に挑戦しない方がよかったのだと思います。
それよりも、その方にとって大切だった思い出に、ゆっくり浸る時間になればいいと思ったのです。
これは私の勝手な想像ですが、その大切な方も、後ろで一緒に鶴を折ってくださっていたのではないかな、と思っていました。
次の教室で「着物を折りたい」と言われた
次の教室の日、その方は席に着くなり、「先生、今日は着物を折りたい♪」と声をかけてくださいました。
私は正直、とても驚きました。
前回の様子から、しばらくは折り鶴を折られるのかなと思っていたからです。
そして、さらに驚いたことに、その日は途中で折り鶴になることはありませんでした。
一つひとつ工程を進め、最後までしっかりと着物を完成させたのです。
紙選びからノリノリで、終始とても楽しそうにしてました。
あまりの変わりっぷりに、教えていた私自身が一番びっくりしました。
折り紙講座で大切にしたいこと
折り紙講座では、折り方や技術をお伝えすることももちろん大切です。
でも、長年講座を続けていると、ときには作品の向こうにある思い出や、その人の人生に触れることがあります。
この出来事以来、私は「なぜ折れないのか」を技術的なこと以外の原因もあると思うようになりました。
もしかすると、その人なりの理由や、大切な思い出が隠れていることもあるかもしれないからです。
一枚の紙の向こうには、その人だけの記憶や物語があるのかもしれません。
これからも、作品だけでなく、その人自身にも目を向けながら教室を続けていきたいと思っています。
折り鶴には、人それぞれ大切な思い出が結びついていることがあります。
一方で、「折り鶴が折れないこと」を恥ずかしいと感じる方も少なくありません。
折り鶴が折れないことについては、こちらの記事でも詳しくお話ししています。
まとめ|折り紙は思い出を呼び起こすことがある
折り鶴しか折れなかった生徒さんとの出会いは、私にとって忘れられない体験になりました。
折り紙は単なる趣味ではなく、ときには大切な思い出や、人とのつながりを思い出させてくれることもあります。
そして、折れない理由は、技術だけでは説明できない場合もあるのだと、この出来事を通して学びました。
これからも、一人ひとりのペースや、その人が大切にしている思いを大事にしながら、折り紙講座を続けていきたいと思います。
皆さんにも、折り鶴にまつわる思い出はあるでしょうか。
この記事を読んで、もし忘れていた大切な思い出を少しでも思い出していただけたなら、とてもうれしく思います。
よかったら、皆さんの折り鶴の思い出もコメントで教えてくださいね。



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