折り紙教室では、ときどき「できない!」と悔しそうな声が聞こえてきます。
講師を始めたばかりの頃の私は、その声を聞くたびに「大丈夫かな」「次はどう教えよう」と心配していました。
そんな私の考え方を大きく変えてくれた、一人の生徒さんがいます。
教室で悔しそうに「できない!」と言っていたその方は、次の教室で、私が想像もしていなかったものを見せてくれました。
「できない!」と自分に腹を立てていた生徒さん
これは、今から10年ほど前の出来事です。
当時の私は講師になったばかりで、毎回手探りで教室を開いていました。
その日、一人の生徒さんが作品づくりに苦戦していました。
「できない……。」
何度もそうつぶやきながら、折り紙と向き合っています。
誰かに怒っているわけではありません。
「なんでできないんやろ。」
そんなふうに、自分自身に腹を立てている様子でした。
教室の中もしんと静まり返り、周りの生徒さんも声を掛けられないほど、本気で悔しそうだったことを今でも覚えています。
私もお手伝いしながら進め、講座の時間内には作品は完成しました。
でも、ご本人はその出来栄えに納得できなかったのでしょう。
悔しそうな表情のまま帰られたことが、とても印象に残っています。
次の教室で私が驚いたこと
次の教室の日まで、私はずっと気になっていました。
「前回は悔しい思いをさせてしまったな。」
「まず謝った方がいいかな。」
「次はどう教えたら、この方に伝わるんやろ。」
そんなことばかり考えていたのです。
ところが、その生徒さんは教室に入ってくるなり、笑顔で私のところへ来ました。
「先生、見て。」
そう言って見せてくれたのは、袋いっぱいの折り紙作品でした。
家で何度も折ってくださったのでしょう。
作品を入れる箱まで自分で工夫して作り、きれいにディスプレイして持ってきてくださったのです。
みんなにも見てみて〜♪とみんなに配り始めました
前回、あれほど悔しそうに「できない!」と言っていた方とは思えないほど、うれしそうな笑顔でした。
私は驚くと同時に、「心配していたのは私だけだったんだな」と、ほっとしたことを今でも覚えています。
そして、この出来事は始まりに過ぎませんでした。
悔しさが次の一歩につながることもある
あの日の出来事は、それで終わりではありませんでした。
その生徒さんは、その後も長く教室へ通ってくださいました。
毎回、私がお出しした作品だけでなく、「こんなのも作ってみました」と、自分なりに工夫した作品も一緒に持ってきてくださるようになったのです。
しかも、ただ教わった通りに折るだけではありませんでした。「この色の方が合うかも」「こんなふうに表現してみたい」と、ふと浮かんだアイデアを口にしながら手を動かすようになったのです。
ある日は、チューリップを茶色のグラデーションで折り、「アンティーク風になりそうやと思って」と、嬉しそうに見せてくださいました。
作品をきれいに飾る工夫もされていて、手作りの箱にディスプレイして見せてくださることもありました。
その姿を見て、周りの生徒さんたちも「すごいなあ」と声をあげることがありました。
最初に教室で見た、悔しそうな表情が嘘のように、誰よりもその方自身が、折り紙の時間を楽しんでいるようでした。
私も講師として、「こんな飾り方があるんだ」「こんな見せ方も素敵だな」と学ばせてもらうことがたくさんありました。
悔しさは、決して悪い気持ちばかりではありません。
その悔しさが「もう一度やってみよう」という気持ちにつながることで、折り紙がもっと楽しくなることもあるのだと、その生徒さんが教えてくださいました。
講師として教えてもらったこと
当時の私は、講師としてまだ経験が浅く、「できない」と悔しそうにしている生徒さんを見ると、「私の教え方が悪かったのかな」「次はどう伝えよう」と心配ばかりしていました。
でも、あの日の出来事が、私の考え方を大きく変えてくれました。
「できない」と言うことと、「諦める」ことは、まったく同じではないのだと知ったのです。
悔しい気持ちをそのまま家まで持ち帰り、「もう一度やってみよう」と紙に向き合う人がいます。
そして、その悔しさを力に変え、自分らしい作品づくりを楽しむようになる人もいます。
あの日の生徒さんは、まさにそんな一人でした。
振り返ってみると、私が10年以上折り紙講師を続けてこられたのは、こうした生徒さんとの出会いがあったからだと思います。
私は折り紙を教えているつもりでしたが、実際には生徒さんから教えていただくこともたくさんありました。
これからも、一人ひとりとの出会いを大切にしながら、折り紙の楽しさを一緒に見つけていける教室でありたいと思っています。
まとめ|「できない」は始まりだった
10年以上折り紙教室を続けてきましたが、今でも忘れられない生徒さんがいます。
教室で悔しそうに「できない!」と何度も口にしていた方です。
でも、その悔しさは諦める理由ではありませんでした。
家でも何度も折り、自分なりの工夫を重ね、色や表現のアイデアを楽しみながら、教室の雰囲気を明るくする存在になっていきました。
その姿を見て、私は「できない」と「諦める」は違うのだと教えていただきました。
折り紙教室では、ときどき「できない」という声が聞こえてきます。
そんなとき私は、あの生徒さんのことを思い出します。
その一言は、終わりではなく、新しい一歩が始まる合図なのかもしれません。



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