折り紙講師をしていると、「失敗した」「うまくできない」という声をよく聞きます。
特にユニット折り紙は完成形が決まっているため、見本と違う形になると落ち込む人も少なくありません。
でも一度だけ、「これは失敗と呼んでいいんやろか」と思ったある生徒さんとの出来事がありました。
薗部式ユニット30枚組への挑戦
その日、講座では30枚組の薗部式ユニットに挑戦していました。
薗部式ユニットは、同じ形のパーツを組み合わせて立体を作る折り紙です。
30枚組は初心者さんにとって最初の大きな壁になる作品でもあります。
組み方の法則が分かると、作品は自然と球体へ閉じていきます。
ところが、法則が頭に入るまでは「あと何枚必要なんやろう?」と迷いやすい作品でもあります。
私は「分からなくなったら次回一緒に組もうね」と伝えていました。
今思えば、この方は、
分からなくても完成させたい気持ちの方が強い人だったのだと思います。
次の講座の日、生徒さんが持ってきたもの
この方は、自宅でも挑戦を続けていました。
ところが、30枚組んでも作品は閉じていきません。
「枚数が足りないんかな?」
そう思って、パーツを追加。
それでも閉じません。
また追加。
さらに追加。
気がつけば、300枚以上のパーツを折り、組んでいたそうです。
そこにあったのは丸いくす玉ではなかった
次の講座の日、生徒さんが持ってきてくれた作品は、丸いくす玉ではありませんでした。
そこにあったのは、L字型の岩のような不思議な立体。
本来そこにあるはずだった、丸いくす玉の姿はありません。
本人はすごく困惑していました。
「なんでやろ?」
「なんで丸くならへんのやろ?」
私が最初に思ったこと
正直なところ、私が最初に思ったのは、
「これ逆にすごいぞ。」
でした。
そして次に浮かんだ言葉は、
「あっぱれ。」
その一言でした。
30枚で閉じるはずだった作品を、
途中で投げ出さず、
300枚以上組み続けた。
それだけでも、私には十分すごいことでした。
しかも、法則を知っている私には、この形を再現することは絶対にできません。
ランダムに組み続けながら立体として成立させる発想そのものが、私にはありません。
私には、丸いくす玉を作るより難しいことをやっているように見えました。
周りの反応
みんな、ユニット作品を組む大変さを知っています。
30枚でも大変なのに、
それを300枚以上組んできた。
その重みは、教室にいた全員が分かっていました。
そこにあったのは驚きと感心の空気でした。
「これ芸術やん。」
そんな声も聞こえてきました。
後になって気づいたこと
この方は、その後も度々見本とは違う立体を完成させてきました。
でも、不思議と毎回ちゃんと立体に仕上がるのです。
しかも、それがなぜかアートとして成立している。
この300枚事件をきっかけに、
私は「この人はこういうタイプなんや」と気づきました。
本人が本当に欲しかったもの
でも、その方が本当に欲しかったものは違いました。
その方が欲しかったのは、
「芸術やん」という言葉ではありません。
みんなと同じように、30枚の丸いくす玉を完成させることだったのだと思います。
結局、その方は思うように作れないことで心が折れてしまい、講座を離れることになりました。
私はその才能を感じていました。
でも、その価値を本人が納得できる言葉にして渡すことはできませんでした。
今になって思うことがあります。
この方は、完成した作品そのものではなく、
途中のどこかで少しずつ違う道へ進んでいたのかもしれません。
もし30枚組んだところで一度確認できていたら。
もし50枚の時点で一緒に見直せていたら。
また違う景色が見えていたのかもしれません。
だからこそ、このタイプの方には、
私が一工程ずつ確認するまで次へ進まない。
そんな進め方の方が良かったのかもしれません。
本人が本当に欲しかった、
30枚の丸いくす玉に近づくためです。
もちろん、それでうまくいったかどうかは分かりませんけどね。
でも、もしもう一度あの頃に戻れるなら、
一度試してみたかった方法です。
まとめ
イレギュラーな形を狙って作れるようになれば、それは立派なアーティストだと思います。
でも、あの方が求めていた正解は、30枚の丸いくす玉でした。
あの人が持っていた感覚を、本人が望む形にするにはどうすればよかったのだろう。
これは今でも、講師として考え続けているテーマです。



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